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著作権に関連する判例解説

バッグのデザインが保護される?

東京地裁令和元年年6月18日(平成29(ワ)31572)不正競争行為差止等請求事件

1.事案の概要

 本件は、原告らが、三角形のピースを敷き詰めるように配置することなどからなる鞄の形態は、原告イッセイミヤケの著名又は周知の商品等表示であり、被告による上記形態と同一又は類似の商品の販売は不正競争防止法2条1項1号又は2号所定の不正競争行為に該当するとともに、同形態には著作物性が認められるから、被告による上記販売行為は原告らの著作権(複製権又は翻案権)を侵害するなどと主張して、被告に対し、不正競争防止法、著作権法及び民法709条に基づき、被告商品の製造・販売等の差止め及び商品の廃棄、損害賠償、謝罪広告の掲載を求めた事案です。

 本件において、原告商品の形態は商品等表示に該当するか、原告商品に著作物性が認められるかなどが争点となりました。

 以下において主要な争点に関する裁判所の判断について説明します。

2.原告商品の形態は商品等表示に該当するか

 裁判所は、

商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ

その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は宣伝広告や販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている(周知性)場合には、商品の形態自体が、一定の出所を表示するものとして、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあるとした上で、

原告バッグについて、

メッシュ生地又は柔らかな織物生地に、相当多数の硬質な三角形のピースが、2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて敷き詰めるように配置されることにより、中に入れる荷物の形状に応じてピースに覆われた表面が基本的にピースの形を保った状態で様々な角度に折れ曲がり、立体的で変化のある形状を作り出す。一般的な女性用の鞄等の表面は、布製の鞄のように中に入れる荷物に応じてなめらかに形を変えるか、あるいは硬い革製の鞄のように中に入れる荷物に応じてほとんど形が変わらないことからすれば、原告商品の形態は、従来の女性用の鞄等の形態とは明らかに異なる特徴を有していたといえる。

新聞や雑誌といったメディアでも、原告商品のデザインの独特さ、斬新さが取り上げられており、原告商品の形態は、これに接する需要者に対し、強い印象を与えるものであったといえる。

したがって、原告商品の本件形態は、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していたといえ、特別顕著性が認められる

と判断しました。

3.原告商品に著作物性が認められるか

 裁判所は、

①著作権法は、著作権の対象である著作物の意義について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(同法2条1項1号)と規定しているところ、その定義や著作権法の目的(同法1条)等に照らし、実用目的で工業的に製作された製品について、その製品を実用目的で使用するためのものといえる特徴から離れ、その特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できないものは、「思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物」ということはできず著作物として保護されないが、上記特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できる場合には、美術の著作物として保護される場合があると解される。

②これを原告商品(ショルダーバッグ、携帯用化粧道具入れ、リュックサック及びトートバッグ)についてみるに、物品を持ち運ぶという実用に供されることが想定されて多数製作されたものである。そして、原告らが美的鑑賞の対象となる美的特性を備える部分と主張する原告商品の本件形態は、鞄の表面に一定程度の硬質な質感を有する 三角形のピースが2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて敷き詰めるように配置され、これが中に入れる荷物の形状に応じてピースの境界部分が折れ曲がることにより様々な角度がつき、荷物に合わせて鞄の外観が立体的に変形するという特徴を有するものである。ここで、中に入れる荷物に応じて外形が立体的に変形すること自体は物品を持ち運ぶという鞄としての実用目的に応じた構成そのものといえるものであるところ、原告商品における荷物の形状に応じてピースの境界部分が折れ曲がることによってさまざまな角度が付き、 鞄の外観が変形する程度に照らせば、機能的にはその変化等は物品を持ち運ぶために鞄が変形しているといえる範囲の変化であるといえる。上記の特徴は、 著作物性を判断するに当たっては、実用目的で使用するためのものといえる特徴の範囲内というべきものであり、原告商品において、実用目的で使用するための特徴から離れ、その特徴とは別に美的鑑賞の対象となり得る美的構成を備えた部分を把握することはできないとするのが相当である。

③したがって、原告商品は美術の著作物又はそれと客観的に同一なものとみることができず、著作物性は認められない

と判断しました。

4.判決

 裁判所は、上記理由により、被告に対し、被告商品の販売等の差し止め、被告商品の廃棄及び7106万8000円の損害賠償金の支払いを命じました。

 なお、その後、上記判決を前提に両社間で和解協議を重ねた結果、裁判上の和解が成立しています。

5.コメント

 本件では、バックの形態に他の商品と異なる顕著な特徴があり、15年近く独占的に使用され、新聞、雑誌等のメディアにおいて広く取り上げられ、一般消費者に対し強い印象を与えていたことが考慮され、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当するとの判断がなされました。

 不正競争防止法に違反すると、本件のように、商品の販売等の差し止め、商品の廃棄、高額な損害賠償金の支払いが命じられるリスクがありますので、事前に十分検討しておく必要があります。

 次に著作物性に関し、バッグのような実用目的で工業的に製作された製品であっても、その製品を実用目的で使用するためのものといえる特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できる場合には、美術の著作物として保護される場合があるとしつつ、本件バッグにおける荷物の形状に応じてその外形が変化することは物品を持ち運ぶために鞄が変形しているといえる範囲の変化であり、かかる実用目的で使用するための特徴と離れ、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分は把握できないと判断しました。

 バックの形態には顕著な特徴があるものの、三角形のピースが敷き詰められたデザインに照らせば、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとは評価しがたく、妥当な判断であると考えます。

音楽教室での演奏も著作権侵害?

 ヤマハなどの音楽教室が日本音楽著作権協会(JASRAC)に対し、著作権利用料を徴収する権利がないことの確認を求めた訴訟で、令和3年3月18日、知財高裁は、音楽教室における講師の演奏については著作権利用料を請求できるが、生徒の演奏については著作権利用料を請求できないと判断しました。

 この裁判では、講師及び生徒の演奏が「公衆に直接聞かせることを目的とした演奏」(著作権法22条)に該当するか等が争点となっていました。一審・東京地裁は、カラオケ店における顧客の歌唱について、音楽著作物の利用主体がカラオケ機器を設置し、客に利用されることで利益を得ているカラオケ店であると判断し、カラオケ店に著作権利用料の支払義務を認めたクラブキャッツアイ事件最高裁判決等を引用し、音楽教室で演奏される課題曲の選定方法、生徒及び教師の演奏態様、著作物の利用に必要な施設・設備の提供の主体、音楽著作物の利用による利益の帰属等の諸要素を考慮し、講師及び生徒いずれの演奏についても、利用主体は音楽教室であると判断しました。その上で、講師及び生徒の演奏は、公衆である他の生徒又は演奏する生徒自身に「聞かせることを目的」とするものであるとして、講師及び生徒の演奏のいずれについても音楽教室に著作権利用料の支払義務があると判断しました。

 これに対し、控訴審・知財高裁は、講師の演奏について一審の判断を維持しましたが、生徒の演奏については、「専ら演奏技術等の向上を目的として任意かつ自主的に演奏を行っている」、「本質は、講師に演奏を聞かせ、指導を受ける自体にある」ことを理由に、生徒の演奏の主体は生徒であるとした上で、生徒の演奏は、音楽教室との受講契約に基づき講師に聞かせる目的で自ら受講料を支払って行われるものであるから、「公衆に直接聞かせることを目的」とするものではなく、著作権侵害が成立する余地はないと判断しました。
 カラオケ店の顧客の歌唱と音楽教室の生徒の演奏で判断が分かれたのは、音楽教室では、生徒が技術の向上等を目的として自主的かつ任意に演奏を行っていることや、その目的のために講師に聞かせることを目的としていることに対し、カラオケ店での歌唱にはこのような目的がないことにあると解されます。また、仮に生徒の演奏について音楽教室の著作権利用料の支払義務を認めた場合、レッスン料の値上げに繋がり、音楽文化の発展が阻害されることになります。

 音楽教室に通う一生徒である私としても、知財高裁の判断は正当であると評価しています。
 知財高裁の判決に対しては、音楽教室及びJASRACのいずれも上告しています。最高裁でどのような判断がなされるか、注目されます。

画像のリツイートも著作権侵害?

 2020年7月21日、最高裁判所が注目すべき判断を示しました。

1.事案の概要

 写真家の男性が、自身のウェブサイトに、自身の氏名や著作権を示す「ⓒ」マークを付した上で、自らが撮影した写真の画像を掲載したところ、この画像がツイッターに無断転載され、さらにリツイート(RT)されました。
 男性は、無断転載者、RT者が男性の著作権・著作者人格権を侵害するとして、これらの者の発信者情報の開示を求め、ツイッター社を訴えました。
 ツイッターのシステム上、タイムラインに画像を投稿すると、投稿者の意図とは無関係に、画像の上下が自動的にトリミングされ、この事案では男性の氏名等がカットされました。

2.争点

 このような投稿者の意図によらないトリミングが著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)を侵害するか否かが争われました。

3.裁判所の判断

 知財高裁は、トリミングについて著作者人格権の侵害を認め、RTした者についても発信者情報の開示を命じました。
 最高裁も、ツイッターのシステムによるものであっても、RT者はかかるシステムを利用してRTを行っており、画像の著作者名がカットされた状態で表示されたのはRT者の行為の結果であるとして、知財高裁の判断を維持しました。

4.まとめ

 今回の判断により、ツイッターで画像付き投稿をRTする場合は、その画像の著作権の有無等に注意する必要があります。
 画像付き投稿のRTにより著作権侵害を指摘された場合には、速やかに削除するようにしましょう。

釣りゲータウン事件

知財高裁平成24年8月8日判決(平成24年(ネ)第10027号、判時2165号42頁)
東京地裁平成24年2月23日判決(平成21年(ワ)34012号)

1.事案の概要

 携帯電話向け及びパソコン向けのインターネット・ウエブサイト「GREE」を運営する原告(グリー株式会社)が、同じく携帯電話等向けのインターネット・ウエブサイト「モバゲータウン」を運営する被告1(株式会社デイー・エヌ・エー)及びゲームソフトの企画制作、製造販売等を業とする被告2(株式会社ORSO)に対し、被告1及び2が共同で製作し、携帯電話向けのモバゲータウンにおいて配信した「釣りゲータウン」という携帯電話機用の釣りのインターネット・ゲーム(Y作品)が、原告の釣りゲームの作品「釣り★スタ」(X作品)の著作権(翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権の侵害である、ウエブページに「魚の引き寄せ画面」のY影像を掲載することは不正競争防止法2条1項1号の周知な商品等表示の混同惹起行為に当たる、YらによるY作品の製作・公衆送信がXの法的保護に値する利益を侵害する民法の不法行為に当たると主張し、Y作品の公衆送信の差止及びウェブサイトからのY作品の抹消、Y影像の抹消、9億4020万円の損害賠償、謝罪広告を求めて訴えた事案である。

2.一審東京地裁の判断

 一審東京地裁は、以下の理由により、Y作品の「魚の引き寄せ画面」はX作品の「魚の引き寄せ画面」を翻案したものであり、X作品に係るXの著作権及び著作者人格権を侵害すると判断し、Y作品の公衆送信の差止、ウエブサイトからの抹消、約2億3500万円の損害賠償を命じた。
 「携帯電話機用釣りゲームにおける魚の引き寄せ画面は、釣り針に掛かった魚をユーザーが釣り糸を巻くなどの操作をして引き寄せる過程を影像的に表現した部分であるところ、この画面の描き方については様々な選択肢が考えられる。
 原告作品の

・水中に三重の同心円を大きく描き、
・釣り針に掛かった魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ、
・魚を引き寄せるタイミングを、魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄せやすくする

という表現は、原告作品以前に配信された他の釣りゲームには全くみられなかったものであり、この点に原告作品の製作者の個性が強く表れているものと認められる。
 他方、被告作品の魚の引き寄せ画面には原告作品と相違する点はあるものの、原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的特徴といえる

・水面上を捨象して、水中のみを真横から水平方向の視点で描いている点
・水中の中央に、三重の同心円を大きく描いている点
・水中の魚を黒い魚影で表示し、魚影が水中全体を動き回るようにし、水中の背景は全体に薄暗い青系統の色で統一し、水底と岩陰のみを配置した点
・魚を引き寄せるタイミングを、魚影が同心円の一定の位置に来たときに決定キーを押すと魚を引き寄せやすくするようにした点

の同一性は被告作品において維持されている。
 その余のY作品の主要な画面変遷についてはありふれた表現であるとして著作権侵害を否定し、不正競争防止法違反及び不法行為の主張も認めなかった。

 原告及び被告らは、この判決を不服として双方控訴した。

3.控訴審知財高裁の判断

 二審知財高裁は、以下の理由により、「魚の引き寄せ画面」に係る一審原告の著作権及び著作者人格権の侵害を否定し、一審原告のその余の請求も棄却した。

 「X作品及びY作品の魚の引き寄せ画面は、

・水面より上の様子が画面から捨象され、水中のみが真横から水平方向に描かれている点
・水中の画像には画面のほぼ中央に中心からほぼ等間隔である三重の同心円と黒色の魚影及び釣り糸が描かれ、水中の画像の背景は水の色を含め全体的に青色で、下方に岩陰が描かれている点
・釣り針にかかった魚影は水中全体を動き回るが、背景の画像は静止している点

において共通する。
 しかしながら、そもそも釣りゲームにおいて、まず水中のみを描くこと、水中の画像に魚影、釣り糸及び岩陰を描くこと、水中の画像の配色が全体的に青色であることは、他の釣りゲームにも存在するものである上、実際の水中の影像と比較しても、ありふれた表現といわざるを得ない。
 次に、水中を真横から水平方向に描き、魚影が動き回る際にも背景の画像は静止していることは、原告作品の特徴の1つでもあるが、このような手法で水中の様子を描くこと自体は、アイデアというべきものである。」

 最高裁第三小法廷は、平成25年4月16日、一審原告の上告を棄却する旨の決定を行い、知財高裁の判決が確定した。

4.コメント

 「著作物の翻案(著作権法 27 条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。」であり、「思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は,既存の著作物の翻案に当たらない。」(江差追分事件最判平成13年6月28日(平成11年(受)第922号))

 上記最判を受け、裁判実務では、翻案権侵害の成否の判断において、①まず、同一性を有する部分がどこかを認定し、②同一性ある部分が創作的表現か否か(思想,感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分か否か)の判断を行い、③上記②が認められれば、次に表現上の本質的な特徴を直接感得しうるか否かを判断するのが一般的である。

 上記知財高裁が、「Y作品の魚の引き寄せ画面は,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分においてX作品の魚の引き寄せ画面と同一性を有するにすぎないものというほかなく,これに接する者がX作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,翻案に当たらない」と判断したのも、上記最判の判断を踏襲したものと解される。

 しかし、多数の釣りゲーム作品が先行する中で、1審判決が「X作品以前に配信された他の釣りゲームには全くみられなかったものであり,この点にX作品の製作者の個性が強く表れているものと認められる」と認定した部分に関し、「アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分」と判断した点には批判も多い。

住宅地図の著作物性が肯定された事例

事案の概要(東京地判令和4年5月27日(令和元年(ワ)第26366号)著作権侵害差止等請求事件)

 本件は、株式会社ゼンリン(以下「原告」といいます。)が、同社の「ゼンリン住宅地図」(以下「原告地図」といいます。)を大量に無断複製等していたポスティング会社等を被告として、原告地図の複製等の著作権侵害行為の差止め、3000万円の損害賠償、原告地図の複製物の廃棄を求めた事案です。

 本件において、原告地図に著作物性が認められるかなどが争点となりました。

 以下において、この争点に関する裁判所の判断について説明します。

原告地図の著作物性について

<判決内容>

・地図の著作物性の判断基準

 一般に、地図は、地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号によって、客観的に表現するものであるから、個性的表現の余地が少なく、文学、音楽、造形美術上の著作に比して、著作権による保護を受ける範囲が狭いのが通例である。

しかし、地図において記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表れ得るものということができる。そこで、地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断すべきものである。

・原告地図についての判断

①原告地図は、都市計画図等を基にしつつ、原告がそれまでに作成していた住宅地図における情報を記載し、調査員が現地を訪れて家形枠の形状等を調査して得た情報を書き加えるなどし、住宅地図として完成させたものであり、

②目的の地図を容易に検索することができる工夫がされ、イラストを用いることにより、施設がわかりやすく表示されたり、道路等の名称や建物の居住者名、住居表示等が記載されたり、建物等を真上から見た時の形を表す枠線である家形枠が記載されたりするなど、長年にわたり、住宅地図を作成販売してきた原告において、住宅地図に必要と考える情報を取捨選択し、より見やすいと考える方法により表示したものということができる。

③したがって、本件改訂により発行された原告地図は、作成者の思想又は感情が創作的に表現されたもの(著作権法2条1項)と評価することができるから、地図の著作物(著作権法10条1項6号)と認めるのが相当である。

コメント

 著作権法10条1項6号において、「地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」が著作物の例示として挙げられています。

 地図の著作物については、一般に、実在する地理上の事象を図面に書き込んで客観的に表現するものであるため、文学や音楽等に比して個性的表現の余地が少なく、創作性を認め得る余地が少ないと考えられます。しかし、作図にあたっての対象の取捨選択や作図の表現方法に関しては創作性が認められうるため、同条はこれを確認する意味で、著作物の例として地図等を挙げているものと考えられます(半田正夫・松田政行 編『著作権法コンメンタール1[第2版] 1条~25条』(勁草書房、2015年)584頁以下参照)。

 これまでの裁判例においても、

①富山住宅地図事件(富山地判昭和53年9月22日・判タ375号144頁)

素材の選択、配列及び表現方法を総合したところに、地図の著作物性を認めることができる。

②新撰組ガイドブック事件(東京地判平成13年1月23日・判時1756号139頁)

記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、現地調査の程度等が重要な役割を果たしうるものであるから、なおそこに創作性が表れ得るものということができる。

と判断したものがあり、住宅地図、編集地図、鳥瞰図、観光案内図、空港案内図などについて著作物性を認めた裁判例が存在します。

 そして、本裁判例も同様に、地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断すべきものとしました。

 その上で、原告地図において、イラストを用いて施設がわかりやすく表示されたり、道路等の名称や建物の居住者名、住居表示等が記載されたり、建物等を真上から見た時の形を表す枠線である家形枠が記載されたりするなどしている点に、創作性が表れているとして、ゼンリン住宅地図について著作物性を認め、被告に対し、侵害行為の差止め及び3000万円の損害賠償を命じました。

 なお、原告の請求が3000万円であったため、損害賠償額は同額となりましたが、被告による複製枚数が非常に多く認定されており、被告の著作権侵害行為により原告に生じた損害額は約2億円と認定されています。

 被告側は業務上長期間にわたってゼンリン住宅地図の多数の複製を行っていたものと考えられますが、会社等で習慣化されている著作権侵害行為については、著作権侵害の意識が薄い反面で、侵害が認められた場合には損害額が多額となりうることに十分ご注意ください。

応用美術の著作物性が否定された事例(タコの滑り台事件)

事案の概要

(東京地裁令和3年4月28日判決(判時2514号110頁)、知財高裁令和3年12月8日判決)

 原告は、モニュメント、彫像、公園施設、遊園施設等に関するデザイン・設計・製作等を業とする会社です。原告は、タコの形状を模した遊具である滑り台を製作して、昭和46年頃、東京都足立区に納入し、同区内の公園に設置されました。原告は、その後も全国各地からタコの滑り台の発注を受け、これを製作して納入していました。

 被告も、「タコの遊具」や「滑り台(たこ)」の製作を目的とする工事を請け負い、これに基づきタコの形状の滑り台を製作し、平成24年頃に足立区内の公園、平成27年頃に東久留米市内の公園にそれぞれ設置されました。

 本件は、原告が被告に対し、被告が滑り台2基を製作した行為が、いずれも原告が有する滑り台に係る著作権を侵害すると主張し、主位的に著作権侵害の不法行為に基づき、予備的に不当利得に基づき、被告がタコの滑り台製作により得た利益の賠償ないし返還を求めた事案です。

 本件では、本件原告滑り台が美術ないし建築の著作物に該当するかが主な争点となりました。

<本件原告滑り台>

裁判所ウェブサイトから転載

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=90359

 

<本件被告滑り台>

裁判所ウェブサイトから転載

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=90359

東京地裁の判断

 一審東京地裁は、以下の理由により、本件原告滑り台の著作物性を否定しました。

(1)美術の著作物に該当するか

ア 応用美術のうち、「美術工芸品」以外のものであっても、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものについては、「美術」「の範囲に属するもの」(同法2条1項1号)である「美術の著作物」(同法10条1項4号)として、保護され得ると解するのが相当である。

イ 本件原告滑り台が美術工芸品に該当しないこと

 原告は、本件原告滑り台が一品製作品というべきものであり、「美術工芸品」(著作権法2条2項)に当たるから、「美術の著作物」(同法10 条1項4号)に含まれる旨主張するが、著作権法10条1項4号が「美術の著作物」の典型例として「絵画、版画、彫刻」を掲げていることに照らすと、同法2条2項の「美術工芸品」とは、同法10条1項4号所定の「絵画、版画、 彫刻」と同様に、主として鑑賞を目的とする工芸品を指すものと解すべきであり、仮に一品製作的な物であったとしても、そのことをもって直ちに「美術工芸品」に該当するものではないというべきである。・・・本件原告滑り台は、自治体の発注に基づき、遊具として製作されたものであり、主として、遊具として利用者である子どもたちに遊びの場を提供するという目的を有する物品であって、「絵画、版画、彫刻」のように主として鑑賞を目的とするものであるとまでは認められない。したがって、美術工芸品に該当すると認めることはできない。

ウ 応用美術としての著作物該当性について

 裁判所は、本件原告滑り台について、タコの頭部を模した部分、タコの足を模した部分、空洞(トンネル)部分及び全体の形状のそれぞれについて、次のとおり述べて「実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものであるか否か」の判断を行っています。

① タコの頭部を模した部分

 タコの頭部を模した部分は、本件原告滑り台の中でも最も高い箇所に設置されているのであるから、同部分に設置された開口部は、滑り降りるためのスライダー等を同部分に接続するために不可欠な構造であって、滑り台としての実用目的に必要な構成そのものであるといえる。

 また、内部の空洞は、頭部に上った利用者が、各開口部及びスライダーに移動するために不可欠な構造である上、開口部を除く周囲が囲まれた構造であることによって、最も高い箇所にある踊り場様の床から利用者が落下することを防止する機能を有するといえるし、 それのみならず、周囲が囲まれているという構造を利用して、隠れん坊の要領で遊ぶことなどを可能にしているとも考えられる。

 そうすると、本件原告滑り台のうち、タコの頭部を模した部分は、総じて、滑り台の遊具としての利用と強く結びついているものというべきであるから、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められない。

② タコの足を模した部分

 本件原告滑り台には、タコの頭部を模した部分から4本のスライダーが延びており、これらはいずれもタコの足を模したものであって、その形状は、直線状か 曲線状かの相違はあるものの、いずれについても、なだらかな斜度をなしつつ、地面に向かって延びているほか、滑らかな板状のすべり面を有し、かつ、その左右には手すり様の構造物が付されていると認められる。

 この点、滑り台は、高い箇所から低い箇所に滑り降りる用途の遊具で あるから、スライダーは滑り台にとって不可欠な構成要素であることは明らかであるところ、タコの足を模した部分は、いずれもスライダーとして利用者に用いられる部分であるから、滑り台としての機能を果たすに当たって欠くことのできない構成部分といえる。 そうすると、本件原告滑り台のうち、タコの足を模した部分は、遊具としての利用のために必要不可欠な構成であるというべきであるから、 実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められない。

③ 空洞(トンネル)部分

 本件原告滑り台 には、正面から見て左右に1か所ずつ、スライダーの下部に、通り抜け 可能なトンネル状の空洞が配置されていると認められる。この構成は、滑り台としての機能には必ずしも直結しないものではあるが、本件原告滑り台は、公園の遊具として製作され、設置された物であり、その公園内で遊ぶ本件原告滑り台の利用者は、これを滑り台として利用するのみならず、上記空洞において、隠れん坊などの遊びをすることもできると考えられる。 そうすると、本件原告滑り台に設けられた上記各空洞部分は、遊具としての利用と不可分に結びついた構成部分というべきであるから、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められない。

④ 全体の形状等

 本件原告滑り台は、頭部、足及び空洞等によって形成されており、その全体を見ると、本件原告滑り台は、見る者をしてタコの体を模しているとの印象を与えるものであると認められる。

 また、とりわけ本件原告滑り台の正面からその全体を見ると、空洞のある頭部 を頂点に、左右へ広がる緩やかな2本の足によって均整の取れた三角形を見て取ることができ、見栄えのよい外観を有するものということができる。

 この点、本件原告滑り台のようにタコを模した外観を有することは、滑り台として不可欠の要素であるとまでは認められないが、そのような外観は、子どもたちなどの本件原告滑り台の利用者に興味や関心を与えたり、親しみやすさを感じさせたりして、遊びたいという気持ちを生じさせ得る、遊具のデザインとしての性質を有することは否定できず、遊具としての利用と関連性があるといえる。

 また、本件原告滑り台の正面が均整の取れた外観を有するとしても、そうした外観は、滑り台の遊具としての利用と必要不可欠ないし強く結びついた頭部及び足の組み合わせにより形成されているものであるから、遊具である滑り台としての機能と分離して把握することはできず、 遊具のデザインとしての性質の域を出るものではないというべきである。そうすると、本件原告滑り台の外観は、遊具のデザインとしての実用 目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められない。

⑤ 以上のとおり、本件原告滑り台は、その構成部分についてみても、全体の形状からみても、実用目的を達するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められないから、「美術の著作物」として保護される応用美術とは認められない。

(2)建築の著作物に該当するか

ア 本件原告滑り台が「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)に該当するとした上で、その著作物性については,応用美術に係る基準と同様の基準によるのが相当である。

イ 本件原告滑り台が,建築物としての実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるか否かにつき検討する。・・・本件原告滑り台は,上記各構成部分を組み合わせることで,全体として赤く塗色されていることも相まって,見る者をしてタコを連想させる外観を有するものであるが,こうした外観もまた, 子どもたちなどの利用者に興味・関心や親しみやすさを与えるという遊具としての建築物の機能と結びついたものといえ,建築物である遊具のデザインとしての域を出るものではないというべきである。

 したがって,本件原告滑り台について,建築物としての実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるとは認められない。

知財高裁の判断

 知財高裁も、一審東京地裁の判断に維持し、本件原告滑り台の著作物性を否定していますが、以下の理由を補足しています。

(1)応用美術の著作物該当性について

 応用美術のうち,美術工芸品以外の量産品について,美的鑑賞の対象となり得るというだけで一律に美術の著作物として保護されることになると,実用的な物品の機能を実現するために必要な形状等の構成についても著作権で保護されることになり,当該物品の形状等の利用を過度に制約し,将来の創作活動を阻害することになって,妥当でない。もっとも,このような物品の形状等であっても,視覚を通じて美感を起こさせるものについては,意匠として意匠法によって保護されることが否定されるものではない。 これらを踏まえると,応用美術のうち,美術工芸品以外のものであっても,実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるものについては,当該部分を含む作品全体が美術の著作物として,保護され得ると解するのが相当である。

(2)一品製作品であるとの原告の主張について

  控訴人(一審原告)が全国各地から発注を受けて製作したタコの滑り台は260基以上にわたること,同社が製作したタコの滑り台の基本的な構造が定まっており,大きさや構造等から複数の種類に分類され,本件原告滑り台と同様の形状を有する滑り台が他にも製作されていたこと等から、一品製作品であったものと認めることはできない。

(3)タコの頭部を模した部分について

 タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台の中でも最も高い箇所に設置されており,同部分に設置された上記各開口部は,滑り降りるためのスライダー等を同部分に接続するために不可欠な構造であって,滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成であるといえる。また,空洞は,同部分に上った利用者が,上記各開口部及びスライダーに移動するために必要な構造である上,開口部を除く周囲 が囲まれた構造であることによって,高い箇所にある踊り場様の床から 利用者が落下することを防止する機能を有するといえる。

 他方で,空洞のうち,スライダーが接続された開口部の上部に,これを覆うよう に配置された略半球状の天蓋部分については,利用者の落下を防止するなどの滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成とまではいえない。そうすると,本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分のうち,上記天蓋部分については,滑り台としての実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して把握できるものであるといえる。しかるところ,上記天蓋部分の形状は,別紙1のとおり,頭頂部から 後部に向かってやや傾いた略半球状であり,タコの頭部をも連想させるものではあるが,その形状自体は単純なものであり,タコの頭部の形状としても,ありふれたものである。 したがって,上記天蓋部分は,美的特性である創作的表現を備えているものとは認められない。 そして,本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分のうち,上記天蓋部分を除いた部分については,上記のとおり,滑り台としての実用目的を達成するために必要な機能に係る構成であるといえるから,これを分 離して美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えているものと把握することはできないというべきである。

 以上によれば,本件原告滑り台のうち,タコの頭部を模した部分は,実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるものとは認められない。

(4)タコの足を模した部分及び全体の形状

 実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるものとは認められない。

コメント

 著作権法上の著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)と定義されており、同法2条2項は、応用美術に含まれる「美術工芸品」も「美術の著作物」に含むものとしていることから、著作物には純粋美術のみならず、応用美術も含まれると解釈することができます。

 この点に関し、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視しうる程度 の美的創作性を具備していると評価される場合は「美術の著作物」として著作権法による保護の対象となる場合があります。多くの下級審の裁判例では、純粋美術同視説から「実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、独立して美的鑑賞の対象となるだけの美的特性を備えているか」という基準により、個々の事案ごとの事情も考慮して判断がなされてきました。

 一審東京地裁でもほぼ同様の基準により判断がなされていますが、知財高裁は、「実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるものについては,当該部分を含む作品全体が美術の著作物として,保護され得ると解するのが相当である。」として、作品の中に「美的特性である創作的表現を備えている部分」がある場合には作品全体が美術の著作物として保護され得るとの判断を示しており、一歩進んだ判断と評価できます。

 そして、本件に関し、上記天蓋部分の形状について、滑り台としての実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して把握できるものとしつつ、その形状自体は単純なものであり,タコの頭部の形状としてもありふれたものであるとして、創作的表現であることを否定しています。

 なお、知財高裁平成27年4月14日判決(TRIPP TRAPP事件)では、創作的表現説から、「ある表現物が著作物として著作権法上の保護を受けるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要し(同法2条1項1号),「創作的に表現したもの」といえるためには,当該表現が,厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの,作成者の何らかの個性が発揮されたものでなければならない。・・・応用美術は,装身具等実用品自体であるもの,家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり,表現態様も多様であるから,応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」という判断基準が示されています。

 今後応用美術の著作物性に関し、創作的表現の有無に着目した判決が増えていくのではないかと考えています。

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