年俸制にも残業代の支払いが必要な場合があります
年俸制でも残業代に不足が生じ得ます
年俸制では年間賃金の総額が決められています。
しかし、一年間に支払う賃金といっても、色々な種類のものがあります。
基本給や諸手当のほか、残業代までも年俸に含めることができるのでしょうか。
個々の雇用契約で、残業代や賞与なども年俸に含むこと自体は認められています。
では、年俸に残業代も含めておけば、それ以上には残業代を支払う必要はなくなるのでしょうか。
いいえ、そういうわけにはいきません。
年俸に含めた残業代は、ある程度の残業時間を想定して計算した、固定金額となります。
ここで想定した時間を超えて残業があれば、その分の残業代は追加で支払わなければなりません。
年俸に残業代を含めたときは、まず想定した残業時間を超えた残業がないようにすることが重要です。
通常賃金と残業代の区別が必要です
年俸に含まれる残業代に不足があるかを確認するためには、通常賃金と残業代とが区別されていなければなりません。
このことは、年俸制に限らず、裁判例上、一般的な要件とされています(最判平成6年6月13日[高知県観光事件]、最判平成24年3月8日[テックジャパン事件]、最判平成29年2月28日[国際自動車事件]等)。
両者の区別があいまいなまま、年俸に残業代を含めていると主張しても、認められる見込みは乏しいといえます。
最近の裁判例でも、年俸制を採用していた事例で、通常賃金と残業代の区別ができないことを理由に、割増賃金が支払われたということはできないとして、追加で残業代の支払いが命ぜられたものがあります(最判平成29年7月7日)。
残業代の実質二重払いのリスク
もし、年俸制の給料に残業代が含まれているという主張が認められなかった場合、実は大変なことが起こります。
なんと残業代として支払ったつもりの賃金の一切が、既払分とは認められない場合があるのです。
こうなってしまうと、重ねて残業代の支払いが命ぜられるので、まるで二重払いのような状態になってしまいます。
しかもここで支払いが命ぜられる残業代は、残業代として支払っていたつもりの分も含めて、年俸全体を基礎として、ゼロから残業代を再計算した上での額となってしまうこともあります。
こんな不条理に陥らないためには、雇用契約書でしっかりとした合意をし、就業規則でも計算方法を明確に定めた上で、通常賃金と残業代とを明確に区別した支払方法を整備する必要があります。
賞与の支払い方法にも要注意
賞与は、額を予め明確にして、3ヶ月を超える期間毎等に支払えば、残業代の基礎から除外できる場合があります。
年俸制の場合、毎月の賃金に、賞与相当額を加算して支払うことがあります。しかし、そういう支払方法では結局、月給を加算して支払っているのと同じことと見なされかねません。そうなった場合、賞与として支払ったつもりの金額も含めて、残業代の基礎となってしまうことがあります。
賞与の額は多額になるので、これを残業代の基礎から除外できるかどうかは大問題です。もし、賞与として支払ったつもりの分も含めて、残業代の基礎に入ってしまったときには、思わぬ残業代の追加払いを余儀なくされてしまいます。
年俸制のリスクチェックをご検討ください
・年間総額で年俸制を定めており、残業代との区別を特に意識していない
・年俸制で給料を定めるにあたり、特別な労働契約書を用意したことがない
・就業規則や賃金規程上、年俸制を意識した規定を特に設けていない
・賞与の支給方法について、年俸制だからといって注意していることは特にない
年俸制の給料を採用している場合には、思わぬ残業代リスクが生じかねません。支払名目や支払方法はもちろん、契約書や就業規則など、どのような合意があったのかを明確に、かつ、労基法上の問題を生じないように書面化しておくことが必要不可欠です。
当事務所では、実際に採用されている年俸制のリスクチェックを承りますので、この機会に是非ともご相談ください。