弁護士が社外役員に就任するメリット
社外役員に求められる資質
社外役員には、企業戦略等の大きな方向性を示し、適切なリスクテイクを支え、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことにより、ブランド価値、レピュテーション等の社会的評価を含めた企業価値を持続的に成長させて中長期的に向上させ、かつ、企業不祥事等による企業価値の毀損を避けるため、内部統制を含めたガバナンスや法令遵守等経営全般のモニタリングを行い、会社と経営陣、支配株主等との間の利益相反を監督し、また少数株主を始めとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させることや、業務執行に関与しない範囲でアドバイスを行うことが期待されています(日弁連「社外取締役ガイドライン」参照)。
そして、このような期待を実現するために、以下の能力や資質が望まれています。
① 様々な事業への理解力、資料や報告から事実を認定する力、問題及びリスク発見能力、応用力、説明・説得能力
② 取締役会等の会議において、経営者や多数の業務執行取締役等の中で、建設的な議論を客観的な立場から整理し、再調査、継続審議、議案への反対等の提案を行うことができる資質及び精神的独立性
弁護士は、臨床法務・予防法務・戦略法務の各場面を通じて、クライアントの事業を理解し、事実を認定し、リスクを発見してクライアントを守る存在です。
上記①及び②において求められる能力や資質は、弁護士が顧問弁護士としての職務や裁判等での紛争解決を通じて日常的に磨いているものです。
また、精神的独立性は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」弁護士の使命(弁護士法1条)に通ずるものであり、士としての矜持です。
弁護士が社外役員に就任するメリットを現象面から見ると、代表的なものは次の3点です。
A) ガバナンスの強化・コンプライアンス経営の実現
B) 株主を始めとするステークホルダーに対する安心・信頼・納得
C) 法的リスクの未然防止・有事の際の迅速対応
A) ガバナンスの強化・コンプライアンス経営の実現
ガバナンスの強化・コンプライアンス経営の実現は、もはや企業規模を問わず企業共通の課題となっています。
コーポレートガバナンス・コードは、平成26年6月24日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦―」が背景となっています。
ここでは「持続的成長に向けた企業の自律的な取組」として、企業が中長期で資本生産性を向上させ、グローバル競争に打ち勝つ強い企業経営力を取り戻す取組が促され、企業収益力の強化により、雇用機会の拡大、賃金の上昇、配当の増加等の好循環を生み出すことが期待されています。
ガバナンスの強化もコンプライアンス経営の実現も、ハードな法規制ではなく、ソフトロー(遵守するか、そうでなければ説明する)という立場が取られています。
内部統制は仕組みだけ整えても機能しません。自分の頭で考えて選択し、責任をもって説明することが求められています。
弁護士は、上記①及び②記載の能力や資質に基づき、なぜ遵守するのか・なぜ遵守しないのかについて、分析・選択・説明の全ての場面で大いに力を発揮し、ガバナンスの強化・コンプライアンス経営の実現に資することが可能です。
B) 株主を始めとするステークホルダーに対する安心・信頼・納得
日本版ステュワードシップ・コードの浸透により、機関投資家の活動が活発化し、議決権の行使基準や行使結果の開示、会社との対話、議決権行使の積極化とこれに伴う反対票の増加が顕著です。
株主を始めとするステークホルダーへの説明は企業が最も重視しなければならない事項の一つであり、安心・信頼・納得を得るために丁寧な説明が求められています。
弁護士は、上記①及び②記載の能力や資質に基づき、自らをステークホルダーの立場に置き換え、その目線で会社の業務執行を監督することに長けており、ステークホルダーから安心・信頼・納得を獲得できる業務執行の実現に資することが可能です。
C) 法的リスクの未然防止・有事の際の迅速対応
法的リスクの未然防止・有事の際の迅速対応は、まさに弁護士の主戦場です。
前者は顧問弁護士としての職務を通じて、後者は裁判や交渉での紛争解決において、いずれも日常的にその力を発揮している事項であり、弁護士のみが紛争解決を業として行うことができます。
弁護士が社外役員に就任していれば、日常的に弁護士によるチェックが可能ですので、リスクが顕在化する前にその芽を摘み取ることができ、有事の際にはシームレスに対応できるという大きなメリットを享受できます。