一話完結形式の連載小説に登場するキャラクターの著作物性を否定した最新裁判例
一話完結形式の連載小説に登場するキャラクターの著作物性を否定した最新裁判例(東京地判令和5年12月7日)を中心に、キャラクターの著作物性に関する判例の流れや理論を解説します。
1.東京地判令和5年12月7日判決の概要
本判決は、一話完結形式の連載小説「木枯し紋次郎」シリーズ及びこれを原作とする漫画、テレビ作品並びに映画作品に登場するキャラクター「紋次郎」の著作物性が争点となった事案です。
原告は、著作物について、〈1〉通常より大きい三度笠を目深にかぶり、〈2〉通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、〈3〉口に長い竹の楊枝をくわえ、〈4〉長脇差を携えた渡世人という記述として特定する旨主張し、個別の写真や図柄等として特定するものではないとしました。
これに対して裁判所は、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載小説においては、当該登場人物が描かれた各回の文章表現それぞれが著作物に当たり、登場人物のキャラクター自体は具体的表現そのものではなく、著作物ということはできないと判断しました。
そのため、著作権者は、連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定する必要があるところ、原告らは、本件書籍において著作権が侵害されたという著作物を具体的に特定しないため、その主張自体失当である旨判断しました。さらに、このことは、小説を原作とする漫画作品、テレビ作品及び映画作品についても同様であると判断しました。
2.キャラクターの著作物性に関する最高裁判例とその理論
キャラクターの著作物性については、小説、漫画やアニメの分野で長らく議論されてきました。特に有名なのが「ポパイ・ネクタイ事件」最高裁判決(最判平成9年7月17日)です。
この事件では、漫画「POPYE」の著作権を有する原告が、ポパイの図柄等を付したネクタイを販売している被告に対して、その差し止めを請求しました。
この事件においては、著作権の保護期間との関係で、連載の各回の具体的な表現を離れた、登場人物の“キャラクター”の著作物性が問題となりました。
最高裁は、「キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができない」として、“キャラクター”自体の著作物性を否定しました。
3.まとめ
東京地判令和5年12月7日判決は、「ポパイ・ネクタイ事件」最高裁判決の判例法理に基づいて、著作権侵害を主張するには、いわゆる“キャラクター”(登場人物の抽象的なイメージや人格)ではなく、具体的な表現(文章やイラスト)を特定して主張立証する必要があるとした上で、その理が小説作品、テレビ作品、映画作品におけるキャラクターにも同様に当てはまると判示しました。
上記裁判例は、最高裁判例を踏襲したものであり、どのように著作物を特定するべきかに関して実務上も注意すべき判断がなされたものと考えております。
弁護士 小山田桃々子
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