メンタルヘルス問題と使用者の損害賠償責任
過重労働や仕事でのストレスにより、労働者が心身のバランスを崩し(メンタルヘルス不調)、仕事を含め日常の社会生活を送れなくなった場合、最悪の場合には自殺に至る等の被害が発生した場合、使用者は責任を負うのでしょうか。
労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定し、使用者の労働者に対する安全配慮義務(健康配慮義務)を明文化しています。
このように、使用者は、従業員に対し安全配慮義務を負っており、かかる義務を怠り、従業員がメンタルヘルス不調により休業や退職を余儀なくされた場合、民法709条(不法行為責任)、民法715条(使用者責任)、民法415条(債務不履行責任)を根拠に、使用者に対し、従業員が被った損害の賠償を命じられることになります。従業員がメンタルヘルス不調により自殺した場合、命じられる損害賠償額は相当多額になることもあります。
使用者は、以下の3つの要件を満たす場合に、従業員のメンタルヘルス不調について責任を負うと考えられています。
① 予見可能性
使用者が実際に従業員がメンタルヘルス不調となり得ることを認識していたか否かは別として、従業員がメンタルヘルス不調となることについて予見可能性がある場合
例えば、使用者が過重労働の実態や職場内のハラスメントを認識し得た場合です。
② 結果回避義務を怠ったこと
従業員がメンタルヘルス不調になるという結果を回避すべき義務を行った場合
例えば、過重労働の実態について認識し得たにもかかわらず、労務の軽減等の措置を講じなかった場合やハラスメント防止措置(事後の対策を含む)を怠った場合です。
③ 因果関係があること
使用者の安全配慮義務違反と、従業員のメンタルヘルス不調、休職、退職、自殺等との間に因果関係がある場合
以上のように、従業員のメンタルヘルス問題について使用者が損害賠償責任を負う場合がありますので、使用者は従業員がメンタルヘルス不調とならないように、職場環境の整備等を行っていく必要があります。
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