私的再建(私的整理)
私的再建(私的整理)とは
「私的再建」とは、法的手続によらずに、債権者と交渉し、再建を果たす方法です。
「私的整理」とも言いますが、整理するのは「会社」ではなく「債務」です。
具体的な流れは「私的再建の流れ」に記載しましたが、簡単に言うと、
①まずはリスケジューリングにより、資金繰りに余裕を生み、冷静さを取り戻す。
②一時的にしのいでいる間に経営を抜本的に見直し、問題点を洗い出し、解決の道筋をつける。
③そうして道筋をつけた後は、再建案の着実な実行とモニタリングを行い、再建に至る。
というイメージです。
私的再建のメリット
私的再建の最大のメリットは、「信用不安」を回避できることです。
法的再建を行うと全ての債権者に裁判所から通知が届いてしまいます。
そうすると、債権者である仕入先や取引先を通じ、他の関係者や顧客にまで会社が危機状態にあることが知られてしまいかねません。
そうなると、「あの会社は破産しそうだ」という情報がまわって会社の信用が失墜し、仕入れができなくなったり、顧客が離れたりする「信用不安」が起き、再建の可能性も断たれてしまいます。
しかし、私的再建では、事業の継続に必要な仕入先や取引先との関係はそのまま維持し、信用不安を回避して再建を進めていくことができます。
また、裁判所の関与がないため、迅速な処理が可能になることが多く、早期に再建を果たすことができるメリットもあります。
他方、私的再建では、少数派であっても再建の鍵を握る債権者の同意が不可欠です。そのため、一人だけが反対している場合でも、再建不可となることもあります。
それ以外には、裁判所に債務弁済禁止などの保全処分を求める制度や債権者が抵当権の実行などに出た場合の対抗措置がないため、一部の債権者が強制執行等の法的な手段を講じた場合には私的再建は難しくなるというデメリットもあります。
法的再建(法的整理)との違い
裁判所の関与のもとで再建を果たす手続を「法的再建」と言います。
「民事再生」や「会社更生」がこれに当たります。
私的再建と法的再建の違いは、そのままそれぞれのメリット・デメリットと重なります。
簡単にまとめると次の表のとおりです。
私的再建 | 法的再建 | |
信用不安の回避 | ◯ | × |
裁判所の関与 | 無 | 有 |
多数決による整理 | × | ◯ |
私的再建の流れ
私的再建のおおまかな流れは次のとおりです。
適切な専門家(例:弁護士や会計士)の選択
↓
会社の窮境原因(危機に陥った原因)や会社の強みの分析
↓
再建計画の策定
↓
債権者への計画提示
↓
(再建計画の修正)
↓
債権者の同意
↓
再建計画の実行(窮境原因の除去、会社の強みの強化)
↓
モニタリング
↓
再建
この流れは、ちょうど病院で受ける診察をイメージしていただくと良いと思います。
体調が悪く病院に行って治療してもらう場合、医師が病気を特定するために問診で済むこともあれば、それでは足りず、レントゲンやCTやMRIを撮ったり、採血をしたり、胃カメラを飲んだり、生検をしたりして、原因を探ることもあります。
そして、情報を集約し、病気を特定し、治療計画を立て、治療がはじまります。
病気の特定
まずは、会社の病気(=窮境原因)の特定がスタートです。
問題は返済にあるのか、原価にあるのか、販売価格にあるのか、人件費にあるのか、接待交際費にあるのか、使途不明金にあるのか等々、窮境原因を特定するため、社長や幹部や会計担当者からヒアリングをしたり、資金繰り票や会計帳簿を確認したり、業務状況を見分したりします。
万が一粉飾決算がある場合には隠さず、正面から向き合う必要があります(「化粧を落とす」とも言います。)。
注射が嫌だからと言って症状を隠してしまうと、病は治らず、最終的には取り返しのつかないことになってしまいます。
そして、窮境原因の特定と並行し、SWOT分析(※)等によって会社の強み・弱みを切り分けます。
※ 会社の外部環境や内部環境を、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)に分けて分析して意思決定や経営資源の最適化を図るフレームワークの一つです。
治療計画の策定
窮境原因と強み・弱みが分かれば、治療計画を立てます。
弁護士が会計士や税理士や中小企業診断士等とタッグを組み、適切な方法(例:リスケ、リストラ、事業譲渡、会社分割、M&A、第二会社方式)を選択し、または、これらを組み合わせて会社の再建計画案を策定します。
再建計画案を策定する場面は、これまで後ろや下を向いていた目線が前や上を向き、期待に胸が膨らみ、ワクワクする場面です。
ステークホルダーへの説明・同意取得
治療計画を立てても勝手に治療を実行できません。
インフォームドコンセントと同様、治療を実行するためには、ステークホルダー(例:債権者である金融機関や保証協会、スポンサーとなる金融機関やファンド)への説明とその同意が必要です。
策定した計画で再建できることを、ステークホルダーに説明すると、様々な角度から多数の疑問が投げかけられることもあります。
それらには一つずつ真摯に検討して応答し、必要に応じて治療計画を変更することもあります。
ステークホルダーからどうやって同意を取得するかが、私的再建での大きな山場となります(専門家の腕の見せ所です。)。
治療
無事ステークホルダーの同意が得られれば、速やかに治療(再建計画の実行)に移ります。
もちろん、理想と現実の違いから軌道修正を余儀なくされることもあります。
その場合も慌てず落ち着いて真摯に対応します。
そして、モニタリングを経て、再建に至ります。
時には予想もしない危機に見舞われることもあるでしょう。
しかし、何事も落ち着いて対応することが肝要です。
私的再建を検討するタイミング
時折、私的再建を検討するタイミングについてご質問を受けることがあります。
その回答は、「可能な限り早い方が良い」です。
しかし、これではやや不親切ですので、チェックポイントを挙げておきます。
一つでも該当する場合は、私的再建を検討するタイミングにあるとご判断ください。
【チェックポイント】
・資金ショートや手形不渡りのリスクがある。
・本業の営業利益が出ていない。
・借入れが年商の50%を超えている。
・実質的債務超過に陥っている。
・資金繰り表を作ることができていない。
最後に
近年では、各都道府県に設置された「中小企業再生支援協議会」を活用し、「経営者保証ガイドライン」を利用して会社・経営者の再建・再出発を果たす方法がメジャーになりつつあり、私達も「中小企業再生支援協議会」を利用した私的再建に積極的に取り組んでいます。
連帯保証している経営者についても、「経営者保証ガイドライン」を利用することができれば、破産を回避しつつ、華美でない自宅を残せる等破産に比べて有利な条件での再出発を図ることができます。
私達には、数十年に亘る経験を通じ、あらゆる業種で数多くの会社・経営者の再建・再出発をサポートさせていただいた実績があります。
ぜひ私達にご相談ください。
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