安全保障貿易管理(輸出管理)・技術流出防止管理
テクノロジーの進歩に伴い、地球規模で取引が行われる現代において、9.11以降のテロリズムの脅威から平和と安全を守る観点からは、海外取引や技術提供における外為法に基づく安全保障貿易管理及び技術流出防止管理が不可欠です。
参考:経産省HP https://www.meti.go.jp/policy/anpo/
管理が必要となる「貨物の輸出」と「情報の提供」の範囲は大変広く、サンプル品を送ったり、返品することも「貨物の輸出」に該当しますし、図面をメールしたりクラウドで共有しただけでも「情報の提供」に当たります。
外為法違反は重い罰則と重大なレピュテーションリスクをもたらし、ひとたび問題が生じると企業の存亡にかかわる事態が生じます。
1.制度の概要
Q 何のために貿易管理が必要なの?
A 目的は、我が国を含む国際的な平和及び安全の維持です。その手段として、武器や軍事転用可能な貨物や技術が、我が国の安全等を脅かすおそれのある国家やテロリスト等、懸念活動を行うおそれのある者に渡ることを防ぐための輸出管理等を行います。
Q 違反するとどうなるの?
A 刑事罰、行政制裁、取引の停止、組織イメージの悪化、株主代表訴訟等のリスクがあります。
刑事罰については、最大で10年以下の懲役、10億円以下の罰金(法人)、3000万円以下の罰金(個人)があります。
行政制裁については、3年以内の物の輸出・技術の提供の禁止、別会社への担当役員等への就任禁止、公表、経緯書の提出等があります。
これらはいずれも会社の存亡に直結します。
つまり、貿易管理(輸出管理)は、経営上最も重大なマネジメント事項といえるでしょう。
最近の重大な違反例5つを経産省HPから引用します。
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/seminer/shiryo/setsumei_anpokanri.pdf
① 平成30年1月22日(略式命令):個人に対し罰金100万円
平成30年4月24日(行政処分):3ヵ月、全貨物・全地域向け輸出禁止
対象物:赤外線カメラ(リスト10項(2)(4))(7))
仕向地:中国
備 考:無許可輸出
② 平成29年7月25日(行政処分):3ヶ月間、全貨物・全地域向け輸出禁止
対象物:誘導炉(リスト2項(13))
仕向地:イラン等
備 考:無許可輸出
③ 平成27年6月15日(略式命令):元社員に対し罰金100万円、法人に対し罰金100万円
平成28年1月20日(行政処分):4ヵ月、全貨物・全地域向け輸出禁止
対象物:炭素繊維(リスト2項(17))
仕向地:中国
備 考:韓国迂回
④ 平成23年3月25日(判決):代表取締役に対し1年6ヶ月(執行猶予3年)、法人に対し罰金120万円
平成23年7月20日(行政処分):1年1ヶ月間、全貨物・全地域向け輸出禁止
対象物:パワーショベル
仕向地:北朝鮮
備 考:キャッチオール違反、インフォーム無視、中国迂回
⑤ 平成21年11月5日(判決):社長に対し懲役2年(執行猶予4年)、法人に対し罰金600万円
平成22年6月18日(行政処分) :7ヶ月間、全貨物・全地域向け輸出禁止
対象物:磁気測定装置他
仕向地:ミャンマー
備 考:キャッチオール違反、インフォーム無視、マレーシア迂回
Q 何を管理すれば良いの?
A 輸出管理のフェーズ1として、まずは「貨物の輸出」や「技術の管理」に該当するかどうかを管理します。
次に、輸出管理のフェーズ2として、該非判定を行います。
「貨物」はおよそモノであれば当たります。サンプル品の送付や輸入品の返品も該当しますので、十分にご注意ください。
「情報の提供」では、「居住者」と「非居住者」を理解することが重要です。
・提供の舞台が外国であれば、日本人同士でも該当し得ます。
・提供の舞台が日本でも、非居住者に提供する場合は該当します。メール送信やクラウド共有も該当します。
Q どうやって管理するの?
A リスト規制は、「貨物・技術のマトリクス表」をつかいこなしましょう。
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/matrix_intro.html
キャッチオール規制は、「キャッチオール規制手続フロー図」と「客観要件確認シート」をマスターしましょう。
「キャッチオール規制手続フロー図」
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/kanri/catch-all/frouzu.pdf
「客観要件確認シート」
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/kanri/catch-all/catch-all-1/checksheet_tsujoheikifukumu.doc
インフォーム通知を受けた場合は、直ちに経産省に相談してください。
そして、判断に用いた「資料」と「判断」と「結果」を記録し、保管する仕組みを作ってください。
2.取引審査
リスト規制やキャッチオール規制といった法令遵守は最低限度の遵守事項です。
取引審査とは、そこから一歩進み、重大な違反を予防するためのリスクマネジメントとしての自主管理です。
輸出の段階ではなく、取引の段階で審査し、リスクを管理しましょう。
取引審査の対象は、モノ・人・用途の3つです。
引合い後、契約を締結するまでの間に次の3つのレベルでチェックします。チェックは、常に最新の情報に基づき、客観的かつ合理的に行ってください。
① 取引部門(担当者と責任者によるダブルチェック)
② 安全保障貿易管理部門
③ 最終判断権者(取締役以上)
チェックするための書式を定め、「資料」と「判断」と「結果」を保管してください。書式としては、次のようなものが考えられます。
① 該非判定書
② 審査票
③ 用途チェックリスト
④ 需用者チェックリスト
⑤ 明らかガイドラインシート
取引審査の判断基準は、大きく次の4つです。
① 貨物・技術が需用者に到達することの確実性
② 需用者が貨物・技術を使用することの確実性
③ 貨物・技術が懸念用途に使用されないことの確実性
④ 貨物・技術が適正に管理されることの確実性
①により需要者の実在性を確認し、②により迂回輸出を防止し、③により漏出を防止し、④により軍事転用を防止します。
懸念顧客情報については、経産省の外国ユーザーリストが有益です。
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law05.html#user-list
ただ、これに頼るだけではなく、独自にリスト化することが望ましいです。情報は常にアップデートしてください。
取引審査のまとめと留意事項
① 客観資料は取引毎に最新情報で行う。
② 客観資料は、懸念を合理的に説明できるまで調査する。
③ 契約書に不正転売、不正転用防止条項を入れたり、その旨を告知したりする。
④ 輸出許可を契約の停止条件とする条項を定める。
⑤ 調査、審査に際してはとにかくエビデンスを残す。
3.濃淡管理
貿易管理や取引審査の体制構築は、自己防衛のための手段です。ただし、重厚な管理体制を作っていても、実施しなければかえって危険です。
たとえば、会社の実態と必ずしもマッチしないモデル輸出管理内部規程(CP)を利用しているケースが散見されます。
CPが実態と合わないためにCP違反となっている状況を黙認していたり、管理の負担を厭って手抜きする状態が常態化したりすると、安全保障貿易管理は、経営上最も重大なマネジメント事項という意識が弛緩します。
意識の弛緩はニアミスの増加をもたらします。
ニアミスの増加は軽い事故の増加をもたらします。
軽い事故の増加は重大な事故をもたらします。
そこで、意識が弛緩しないよう、実態に即した現実的な管理体制の構築、つまり、濃淡管理(メリハリをつけた管理)をご提案しています。
濃淡管理のポイント
① 貨物や技術の機微度
② 仕向地
③ 需用者
④ 用途
⑤ その他(単発契約か継続取引か等)
4.教育及び研修
教育及び研修と監査は輸出管理の重要な二本柱です。
教育及び研修は、輸出者等遵守基準1条1号ロ及び2号トに基づく義務及び努力義務です。
輸出等業務従事者への指導を怠ると、輸出者等遵守基準に反することになり、勧告や命令を受けたり、刑罰が科せられたりすることもあります。
モデルCPでは、役員や従業員に対する教育及び研修が義務化されています。モデルCPをそのままご利用されているにもかかわらず、教育及び研修を怠っているという事態が生じないようにしましょう。
また、教育及び研修は企業のトップの態度が重要です。
・トップから年一回はメッセージを送りましょう。
・トップの態度はメール等で記録を残してください。
教育及び研修の対象について、
・事業部門に特化した該非判定を行いましょう。
・階層別、職種別、役割別に定期的に行いましょう。
教育及び研修の方法について、
・適切なケーススタディを策定しましょう。
・理解度をテストしましょう。
・外部講師も活用しましょう。
教育及び研修は記録し保管しましょう。輸出管理に関する周知徹底のエビデンスとなります。
そして、教育及び研修の結果は輸出管理の責任者に報告しましょう。
5.監査
監査は、網羅的・計画的に行うことが大切です。
監査のポイントは以下のとおりです。
・監査体制を整備する(監査規程、マニュアル、年間計画)。
・輸出管理部門に審査担当から独立した監査担当を置く。
・各種規程の内容、管理体制、グループ会社も監査対象とする。
・監査は最低2名で行う。
・的確な監査報告書を作成し、提出する。
監査当日のチェック項目として次のような項目が考えられます。
監査報告書における指摘事項として次のような項目が考えられます。