ステマの手口別・代表的な業界別の事例を弁護士が解説
ステルスマーケティング(ステマ)とは?
ステルスマーケティング(以下、ステマ)とは、広告であることを消費者に明示せず、あたかも第三者の客観的な意見であるように装って商品やサービスを宣伝する行為を指します。例えば、企業の従業員が一般ユーザーになりすまして自社製品を評価したり、インフルエンサーが広告表記をしないまま特定ブランドを推奨するなど、消費者が「広告だ」と気づきにくい形で宣伝を行うケースが典型例です。こうしたステマは、一見すると自然な口コミやレビューのように見えるため、閲覧者の信頼を得やすい一方で、広告表示義務を怠ることによって法的リスクを抱える可能性があります。ステマが問題視される主な理由は、まず第一に広告と気づかないまま商品を購入し、サービスを利用してしまうため、公正な選択が妨げられ消費者の判断を歪めてしまう可能性があることです。次に正直に広告を提示している企業との差が生じ、不正な優位性を得ることで市場競争が歪み競争環境の不公正化になりかねないことです。また、ステマが発覚すると企業やインフルエンサーに対する信頼が一気に低下し、ブランドイメージを大きく損なうといった社会的信用の喪失につながります。そして、景品表示法や不正競争防止法などに違反した場合、もちろん行政処分や罰金などの厳しい制裁を受ける可能性があります。特にSNSの普及により、個人が発信する情報の影響力が格段に増し、企業の宣伝担当者やインフルエンサーがステマを行いやすい環境が整ってしまいました。その結果、近年は消費者庁などの行政機関がステマ監視を強化しており、違反が確認されれば大きな社会的批判を浴びるリスクも高まっています。よって、企業としてはステマの手口や規制内容をしっかりと理解し、透明性のあるマーケティング活動を行うことが重要です。
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ステマ規制違反が引き起こすリスク
ステマ規制違反が企業にもたらす影響は、単に景品表示法や不正競争防止法等の法律に抵触するリスクだけではありません。むしろ、法的制裁と同じくらい深刻なのが、消費者や取引先、さらには社会全体からの信用失墜に伴う長期的ダメージです。たとえ法違反に問われなくても、「ステマをしているかもしれない」という疑念を持たれただけで、ブランドイメージが大きく揺らぐ可能性があります。ステマ規制違反によって生じうるリスクをいくつか挙げると、以下のとおりです。最も大きなリスクは消費者の信頼喪失です。口コミやレビューに対する不信感が生まれ、既存顧客の離脱や新規顧客の獲得難易度が上がる恐れがあります。消費者の信頼の喪失はブランドイメージの低下をもたらします。情報が瞬時に全世界に拡散するネット社会において、一度悪評が広がると回復には長い時間と莫大なコストがかかり、壊滅的なダメージを受けるおそれもあります。また、問題となった事案について、行政から課徴金や罰金を課されたり、再発防止策の実施等の措置命令などを受けるリスクがあります。マスコミ報道による社会的批判などSNSやメディアを通じて違反事例が拡散されると、広範囲にわたって企業名が傷つき、売上や株価にも深刻な影響を与えるおそれがあります。そして、ステマ疑惑が持たれた企業は、後々まで「不正な手法で消費者を欺いた」というレッテルを貼られるリスクがあります。たとえ誤解や軽微な違反だったとしても、社会的反響が大きければ修復は容易ではありません。そのため、企業としてはステマを未然に防止するだけでなく、万が一疑惑が発生した際の迅速かつ誠実な対応が求められます。コンプライアンス意識を高め、消費者の視点に立ったマーケティングを行うことこそが、長期的なブランド価値の維持・向上につながるでしょう。
ステマ規制違反時に企業が受ける罰則等
ステマ規制に違反した場合、企業が受ける可能性のある罰則や制裁は多岐にわたります。具体的には、景品表示法や独占禁止法、不正競争防止法など複数の法律が関わることもあり、違反の程度や故意性によって課されるペナルティが異なってきます。以下は主な罰則等の一例です。
措置命令
消費者庁などの行政機関から、違反行為の差止めや再発防止策の導入を求める命令を受ける場合があります。企業は命令を遵守しなければならず、対応を怠るとさらに厳しい処分に移行するリスクもあるでしょう。
課徴金
売上高の一定割合(例:売上高の3%)を納付しなければならないケースがあり、巨額の課徴金が企業に大きな財務負担をもたらします。
罰金・懲役刑
法人に対しては数億円規模の罰金、個人(役員や担当者)に対しては懲役刑が科される可能性もあります。特に、組織的にステマを行っていたと認定されれば、厳罰化される傾向があります。
社会的制裁
法律上の罰則に加え、マスコミ報道やSNSでの批判などによって企業の評判が大きく損なわれることも、実質的には大きなダメージとなります。株価の下落や取引停止など、ビジネス継続に深刻な影響が及ぶケースもあるでしょう。
再発防止策の義務
行政からの指導により、社内研修やガイドライン整備、監査体制強化などを行う義務が課されることもあります。特に、ステマは消費者の目を欺く行為として社会的な批判が強まっており、近年は罰則の強化や監視体制の厳格化が進んでいます。そのため、ただ「発覚しなければよい」という姿勢ではなく、ステマを行わない仕組みづくりと社員教育が不可欠です。もし万が一違反が疑われた場合でも、迅速に法的アドバイスを求め、適切に対応することでダメージを最小限に食い止めることが望まれます。
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ステマの手口別に見る具体的な事例
ステマは様々な手口で行われるため、企業や個人が意図せず巻き込まれてしまうケースもあります。そこで、代表的な手口をいくつか具体的に紹介します。
なりすまし型ステマ
企業の従業員や関係者が、あたかも一般消費者であるかのようにSNSやレビューサイトに投稿し、自社製品を高く評価するケースです。例えば、「この化粧水は肌トラブルが減った」「このスマホは他社製品より性能が良い」など、個人の感想を装って宣伝するため、閲覧者はそれが内部の人間によるものだと気づきにくい点が問題となります。
第三者への指示型ステマ
企業がインフルエンサーやブロガーに対して報酬を支払い、広告表記をせずに好意的なレビューを投稿させる方法です。依頼主が企業であることを伏せ、自然な感想に見せかけるため、消費者の判断を誤らせるリスクが高まります。
利益提供型ステマ
商品やサービスを無料、もしくは割引価格で提供する代わりに、広告であることを隠して好意的なコメントや評価を投稿してもらう方法です。飲食店が無料食事券を配布し、SNS上でのポジティブな口コミを誘導するケースなどが当てはまります。
口コミサイトの評価操作
飲食店やホテル、または物販系サービスで、複数の架空アカウントを用いて不自然な高評価コメントを量産する事例があります。中立的なレビューサイトであっても、一部の投稿が企業によるステマである可能性があるため、消費者に誤解を与えやすい状況が生まれます。
こうした手口は、SNSやオンラインレビューが普及した現代ならではの問題といえます。ステマは企業だけでなく、インフルエンサー本人や広告代理店も巻き込んで行われる場合が多く、誰か一人の責任では済まされない複雑な構造を持ちます。企業は自社が加担しないだけでなく、外部パートナーにもステマを行わせないよう管理体制を強化する必要があるでしょう。
業界別に見る代表的なステマ事例
ステマはどの業界でも起こり得ますが、とりわけ消費者の口コミや評判が売上に直結しやすい分野で多発しがちです。ここでは、代表的な業界の事例をいくつか紹介します。
医療・ヘルスケア業界
病院やクリニック、製薬会社などが、患者や一般ユーザーを装って特定の治療法や医薬品の有用性を過剰に強調する投稿を行うケースがあります。医療情報は専門性が高く、知識を持たない消費者が誤解を招きやすいため、倫理的にも大きな問題となります。
飲食業界
レストランやカフェが、口コミサイトやSNSで自社に高評価を与える書き込みを社員に指示したり、別アカウントを作成させて好印象を演出する方法です。また、無料クーポンを配布し、広告表記をしないままポジティブな口コミを投稿させる事例も後を絶ちません。
ファッション・美容業界
インフルエンサーを活用したマーケティングが盛んな業界です。ブランド側が商品を無償提供し、その感想を「広告」と明示しないままSNSに投稿させることで、ファッションアイテムや化粧品の優位性を誇張する手法が問題視されています。
テクノロジー業界
スマートフォンや家電、パソコンなど新商品のレビューや比較記事において、実際には企業が依頼主となってポジティブな評価を広めるケースがあります。ガジェット系のレビューサイトやYouTubeチャンネルで広告表記を行わないまま製品を推奨すると、消費者が誤った判断を下すリスクが高まります。
エンターテインメント・アプリ業界
ゲームやアプリの紹介動画などで、実況者や有名YouTuberがスポンサーの存在を公表せずに「面白い」「おすすめ」などと語り、ダウンロード数を稼ぐ手法も典型的なステマの一つです。
これらの事例からわかるように、ステマは一部の業界に限った話ではなく、幅広い分野で確認されています。特に近年はSNSの即時拡散力が高まり、企業が意図せずともステマと疑われるような状況に陥るリスクも増えました。業界特性に合わせた予防策と監督体制をしっかり整えることが重要です。
ステマに対して企業の対応策
ステマのリスクを最小限に抑えるためには、企業が積極的に対策を講じる必要があります。ステマは一度発覚すると信頼回復に長い時間を要するため、予防が何よりも重要です。以下に有効な対応策をまとめます。
明確なルール・ガイドラインの策定
社内外で共有するルールとしての「広告表記ガイドライン」を作成し、従業員や提携するインフルエンサー、広告代理店に周知徹底することで、意図せぬステマを防ぎやすくなります。
従業員教育・研修の実施
ステマが法的にどのように問題視されるか、実際にどのような罰則が科される可能性があるかを理解させる研修を行うことで、従業員一人ひとりの意識を高めることができます。
広告契約での明示
インフルエンサーやブロガーとの契約書に、広告であることを明示する義務や、ステマが発覚した際のペナルティなどを盛り込んでおくと、リスクを大幅に抑制できます。
モニタリング体制の整備
自社や関連するSNS投稿を定期的にチェックし、不自然な口コミや疑わしい高評価レビューがないか監視します。外部専門家を活用するのも効果的です。
透明性の確保
企業のプロモーション活動であることを積極的に開示し、顧客との信頼関係を築く姿勢が大切です。長期的には、正直でわかりやすい広告戦略のほうが企業イメージを向上させるでしょう。
社内コンプライアンス部門との連携
新たなキャンペーンや広告手法を導入する際には、法務部門やコンプライアンス担当に相談し、ステマのリスクを十分に検証することが望まれます。
弁護士等の第三者機関の活用
弁護士や業界団体等の第三者機関によるチェックを定期的に受けることで、客観的な視点からステマリスクを洗い出し、改善につなげることが可能です。
ステマに対しては、社内外のルール整備、教育、監視の三位一体の取り組みが不可欠です。企業が「知らなかった」では済まされない時代だからこそ、一つひとつのマーケティング施策に透明性を持たせ、消費者に誠実なコミュニケーションを図ることが長期的な成功のカギとなるでしょう。
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当事務所のサポート内容
当事務所では、ステマ規制をはじめとする広告関連法に精通した弁護士が中心となり、企業のコンプライアンス強化やトラブル防止に向けたサポートを行っています。特に、近年強化されている景品表示法や独占禁止法、不正競争防止法に対応したアドバイスが可能です。
広告チェックサービス
広告戦略のリスクを最小化するため、弁護士が広告の適法性をチェックします。
スポットでのご依頼
基本料金 :A4で4ページ以内の1広告あたり2万7500円(税込み)
対応内容 :景表法や薬機法に抵触する部分の指摘
オプション:+2万7500円(税込み)で代替表現の提案
※A4で5ページ以上の広告については別途ご相談
継続的なご依頼
月額料金:5万5000円(税込み)でA4で8ページ以内の広告を月2広告までチェック
追加広告:3広告目以降は1広告あたり2万2000円(税込み)
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※A4で9ページ以上の広告については別途ご相談
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事例を基にした学習:実際の違反事例を取り上げ、具体的なリスク回避方法を学べます。
ステルスマーケティング規制を遵守することは、企業にとって重要な課題です。当事務所では、広告表示に関する法的リスクを最小限に抑えるためのサポートを提供しています。コンサルティングや広告チェックサービス、セミナーなど幅広いサービスを通じて、企業の透明性と信頼性の向上を支援いたします。ご相談やご質問がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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