【弁護士による判例解説】施設内で起きたお客様同士の事故。その賠償責任を施設が負う?(福岡地方裁判所令和2年3月17日判決)
施設内で起きたお客様同士の事故は誰が賠償責任を負うのでしょうか。時折、「施設内で起きたお客様同士の事故については一切責任を負いません。」という掲示を目にします。このような掲示をしておけば責任を免れるのでしょうか。
令和2年3月17日、施設の運営会社に対する不法行為責任を認めた裁判例が出ましたので、ご紹介します(福岡地方裁判所令和2年3月17日判決・判例時報2460号84頁)。
1 事案の概要
遊園地内のゴーカート場で、身長180㎝・体重80kg超の成人男性が子どもと一緒にカートに乗車して待機していたところ、小学校高学年程度の児童が運転するカートに追突され、この成人男性が頸椎捻挫等の怪我をしました。
怪我をした男性は、遊園地の運営会社に対し、事故防止のための措置を怠ったとして損害賠償を求めました。
2 争点
男性の怪我を負わせたのは児童であり、遊園地ではありません。それでも運営会社は損害賠償責任を負うのでしょうか。
3 裁判所の判断
福岡地方裁判所は、このゴーカート場は4歳以上で所定の身長制限を充たせば誰でも利用できることを指摘し、運転に未熟な子どもによる追突事故が起きることは十分に予見できるため、運営会社は遊園地を利用する全ての者に対する利用契約上の義務として、追突事故の発生を防止する措置を講じ、人の生命、身体を保護する義務を負うと判断しました。
これに対し、運営会社は、発進地点から約3.4m後方で周回を終えたカートを停止させるという運用をしていたようですが、この運用ではブレーキとアクセルの踏み間違えによる追突事故を確実に防止させるには不十分であり、事故を確実に防止させるための運用がされていなかったと判断し、前記義務を怠ったものとして不法行為責任を肯定しました(民法709条)。
4 まとめ
今回は遊園地の事案ですが、遊園地以外の施設でも同様の判断がなされるものと思われます。
「施設内で起きたお客様同士の事故については一切責任を負いません。」という掲示をしていたとしても、それだけで責任を免れられるわけではありません。施設内でのヒヤリハットをしっかり収集し、どのような事故が起きるか予め検討し、事故に備えていただくことが肝要です。
当事務所でもヒヤリハットの研修を行っております。これまでに対応したヒヤリハットや施設事故には、商業施設・介護施設・病院・飲食店等での接触事故・誤嚥事故・転倒転落事故・火傷・第三者加害等があり、多岐にわたっています。
また、賠償責任の前提となる予見可能性は、過去の裁判例等を踏まえた法的判断を伴うものですので、施設の運営に際しては、施設内での事故についてどこまで予見し、どの程度まで事故防止措置を講じるべきかについて、ぜひ私たちにご相談いただくことをお勧めします。
ヒヤリハット研修や事故防止措置に関するお問い合わせは、下記お問い合わせフォームから承っておりますので、お気軽にお申込みください。
(弁護士 竹内まい)
京都総合法律事務所は、1976(昭和51)年の開所以来、京都で最初の「総合法律事務所」として、個人の皆さまからはもちろん、数多くの企業の皆さまからの幅広い分野にわたるご相談やご依頼に対応して参りました。経験豊富なベテランから元気あふれる若手まで総勢10名超の弁護士体制で、それぞれの持ち味を活かしたサポートをご提供いたします。