就業規則における当事務所のサポート
目次
就業規則の意義・目的 ~就業規則は「会社を守る」ためのルール~
これから従業員を雇おうとするときには、求人を出すことになりますが、その際、どういうことを明らかにして募集を行うでしょうか。
最低限、どういう仕事内容で、何時から何時までが就業時間で、いつが休みで、給料の額がいくらかということが明らかでなければ、誰も応募はしてくれないことでしょう。
しかし、いざ働いてもらうと、この最低限のことだけでは足りないということがあり得ます。たとえば、従業員が心身を病んでしまって、しばらくの間、働けなくなってしまったというような場合、いきなり解雇するということは、さすがに気の毒だといえます。
そんなときは、しばらく休んでもらうこともあるでしょうが、それをどれぐらいの期間とするのか、そこまでで治らないときはどうするのか、何か基準が決まっていないと、対処に困ることがあります。
また、すべての従業員が、しっかり働いてくれれば良いのですが、中には会社の秩序を乱すような問題行動をする者もいるかもしれません。
そういう従業員に対しては、懲戒によって対処する必要がありますが、どのような行為をすると、どういった懲戒がなされるのかも、ルールとして定めておかなければ、そもそも懲戒自体ができません(最判平成15年10月10日[フジ興産事件])。
このように、「万が一」に備えて、会社のルール作りをすることは是非とも必要なわけですが、ルールが必要なのは何も「万が一」の場合だけではありません。従業員が働く上で一番関心を持っているのは、やはり給料についてであり、特に最近では残業代をめぐるトラブルが後を絶ちません。
ほとんどの会社では、残業代をきちんと支払っておられると思います。しかし、きちんと支払っている「つもり」でも、そういう支払い方法では、法律上、正しい残業代が支払われているとは認められないとされる例がとても多く見られます。
典型的には、定額残業代や固定残業代といわれる方法であり、これは会社のルールとして、どれだけの額を、どういう場合に支払うのか、きちんと定めた上で、従業員にも理解してもらうことが最低限必要になります。
法律上、就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する場合に作成が義務づけられています(労基法89条)。そのため、規模が小さい事業所では、就業規則がないということも珍しくありません。
しかし、就業規則は従業員の働き方を定めるためのルールです。働き方のルールは、事業所の規模の大きさにかかわらずに必要です。法律上の作成義務がなかったとしても、どのように働くべきかを明確にするため、就業規則は必ず作成すべきです。
「ひな形」をそのまま就業規則として使用する危険性
法律では、就業規則に定めるべき事項として、次のものが指定されています(労基法89条)
【必ず定めなければならない事項(絶対的必要的記載事項)】
① 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇 並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
② 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の 締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③ 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
【定めを置く場合には規則に明記が必要となる事項(相対的必要的記載事項)】
① 退職手当に関する事項
② 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
③ 食費、作業用品などの負担に関する事項
④ 安全衛生に関する事項
⑤ 職業訓練に関する事項
⑥ 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
⑦ 表彰、制裁に関する事項
⑧ その他全労働者に適用される事項
これらはどれも、会社で従業員がどのように働くかというルールであることには違いありませんが、どちらかというと、従業員が労働者として、会社に対してどのような「権利」を有しているのかという意味合いが強いものといえます。
就業規則には、厚生労働省が公開している「モデル就業規則」をはじめとする様々な「ひな形」がありますが、これらは従業員の「権利」の範囲を定めるという色合いが強いものが少なくありません。
もちろん、労働基準法に定められていることがらは、従業員を雇用して事業を営む者の責任として、必ず守らなければなりません。
しかし、会社の一員として働いてもらう以上は、従業員の方にも守ってもらわなければならないルールもあります。
「ひな形」として用意されている就業規則は、どうしても従業員の労働者としての「権利」を明確にするということに傾きがちで、会社が従業員に守ってもらわなければならないルールを定めるという意識に乏しくなりがちです。
就業規則を作成する際、法律が必ず定めなければならないとしている事項に漏れがないかを確認するため、ひな形を参照することは便利です。
しかし、ここにもう一歩、会社が従業員に守ってもらわなければならないルールを定めなければ、万が一、従業員とのトラブルが発生した際には、就業規則は従業員が会社に対して、労働者としての「権利」を主張するためだけのものとなりかねません。
もし、ひな形をそのまま就業規則として使っておられるならば、すぐにでも見直しが必要です。
弁護士が監修する就業規則のメリット
就業規則の作成は、社会保険労務士による主な業務の一つです(社労士法27条1項2号)。実際、社会保険労務士が関与して作成された就業規則は、労働法令によって必要とされる事項がきちんと網羅されており、精度の高いものであるといえます。
もっとも、労働法令は基本的に従業員の労働者としての権利を守るという価値観を持って体系化されているものです。
労働法令によって必要とされる事項を網羅した就業規則は、当然、必要なものですが、会社側からしてみると、こうして出来上がった就業規則は、もっぱら従業員の労働者としての権利を会社が守るためのルールとしての側面が強くなりがちです。
従業員のとっては好都合ですが、万が一、従業員とのトラブルが生じた際には、会社で作ったはずの就業規則が、従業員の味方に回ってしまうこともあり得ます。
労働法令によって必ずこうしなければならないとされていることがらを、就業規則によって違う定めを置くことはできません。
しかし、労働法令に特に定められていないことがらや、必ずこうしなければならないとまではされていないことがらは、会社が業務を行う上で必要かつ合理的な範囲で、会社が主導権を発揮できるような定めとしておくべきです。
従業員との万が一のトラブルは、こうして会社が主導権を発揮して、従業員に対して命令的な対応をした場合や、労働契約上の権利義務関係が明確でない場合に生じます。このような場合に備えて、就業規則は「会社を守る」ことができるものとして定められていなければなりません。
そのためには、法令の解釈はもちろん、裁判例上で就業規則の定めがどのように考慮されているのかをふまえた内容に整えていくことが必要不可欠です。実際、多くの労使トラブルで、就業規則や賃金規程の規定ぶりが勝敗を決したという例も少なくありません。
当事務所のサポートプラン
当事務所では、企業側の立場からの労務問題への対応・対策に注力しており、実際の裁判例はもちろん、これまで積み重ねてきた労使トラブルに対する実務経験をふまえて、いざというときに「会社を守る就業規則づくり」のサポートをさせていただいております。
(1)就業規則は本則のみを対象とし、条文数は本則として定められている条文総数(附則を除く)をいいます。
(2)賃金規程は本文中で附属規程とされているものを含みます。退職金規程等、賃金規程とは別個独立のものは含みません。
まずはお使いの就業規則と賃金規程が、万が一の労使トラブルの際に、きちんと会社を守るものとして定められているか、リスクチェックをご用命ください。
その上で、改定が必要となった際には、弊所にて具体的な修文案のご提案もふまえたサポートをさせていただきます。また、就業規則や賃金規程にとどまらず、すべての社内規程を網羅的に検討の上、体系化や統廃合を行うことのご相談も承っております。
就業規則をはじめとする社内規程の見直しは、是非とも弊所にご用命ください。